「チェーンステッチ=頑丈」は大間違い。ジーンズの裾上げで服好きが“じゃじゃ馬ミシン”にこだわる理由
どうも!
インディゴの香りでご飯が3杯食べられる男、コロモビト.ライターのコガタです。
お気に入りのジーンズを奮発して買い、いざ裾上げをお願いしようとした時、ショップの店員さんにこう聞かれて戸惑った経験はありませんか?
「裾の始末は、チェーンステッチにしますか?」
(チェーンステッチ……? よく分からないけど、鎖(チェーン)って名前がついてるくらいだから、きっと頑丈で強い縫い方なんだろうな)
いやいや、実はそれ……大きな勘違いなんです。
結論から言うと、チェーンステッチは一般的な縫い方よりも構造上糸切れに弱く、ひと筆書きのようにスルスルと解けやすい「不便な縫い方」です。
え、弱いの?
じゃあ、なんで?
私たち服好きは、わざわざ専用のミシンを探してまで、そんな不便でほどけやすい縫い方にお金を払うのでしょうか?
今回は、ジーンズの裾上げにおける永遠のテーマ「チェーンステッチ問題」について。
デニム好きが愛してやまない、奥深すぎるステッチの世界へご案内します。
結論:弱くて解けやすい。でも「最高」

「チェーン(鎖)=頑丈で長持ち」 言葉の響きからそんなイメージを持たれる方は非常に多いのですが、実は構造上は逆です。
一般的な洋服の裾上げに使われる「シングルステッチ」は、上糸と下糸の2本がガッチリと絡み合って縫われるため、非常に丈夫でほつれにくいのが特徴です。 対して「チェーンステッチ」は、たった1本の糸を裏側でループ状の輪っかにして連ねているだけの構造。そのため、どこか1箇所でも糸が切れてしまうと、そこから連鎖的にスルスルッと解けてしまう弱点を持っています。
「えっ、じゃあなんでわざわざそんな弱いステッチにするの?」と思いますよね。
それは、その「弱さ(不完全さ)」こそが、ジーンズを最高にカッコよく育てるための絶対条件だからです。
一般的なシングルステッチには、洗濯しても縮みにくい「ポリエステル糸」が使われることが多く、裾は平らで綺麗なまま保たれます。 対して、ヴィンテージ仕様のチェーンステッチに使われるのは「綿の糸」。この綿糸と「1本の糸による複雑なループ構造」は、洗濯して乾燥させると生地と一緒にギュギュッと強烈に縮む性質を持っています。

この「糸が縮んで生地を引っ張る力」によって、裾の周りにボコボコとした波打つようなシワが生まれます。 そして、そのシワの出っ張った部分(山)だけが擦れて色落ちしていくことで、ヴィンテージジーンズ特有の美しいコントラスト……いわゆる「アタリ(パッカリング)」が完成するのです。
つまり、チェーンステッチとは「極上の色落ち(アタリ)を引き出すために、あえて強度を犠牲にしたロマンあふれる縫い方」なのです。
実は裾だけじゃない!ジーンズは「適材適所」

「解けやすいなら、ジーンズの縫製としてはダメなんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実はジーンズにおいてチェーンステッチが使われているのは「裾」だけではありません。
過酷な労働環境で穿かれていたジーンズは、パーツごとに「シングル」と「チェーン」を使い分ける適材適所の機能美を持っています。
たとえば、バックポケットやジッパー周りなど、絶対に破れてほしくない頑丈さが必要な場所には「シングルステッチ」が使われます。

画像:上がシングル・下がチェーンステッチ
一方で、ウエストや内股の長い距離には「チェーンステッチ」が多用されています。これは、ループ状の縫い目が「生地の動きに合わせて伸縮してくれる(突っ張らない)」という実用的なメリットがあるからです。また、下糸の交換が不要で一気に縫い上げられるため、大量生産時代の生産効率を上げるための工夫でもありました。
ジーンズのステッチは、ただのデザインではなく、理にかなったワークウェアの歴史そのものなのです。
今、お手元にジーンズがある方(あるいは今まさに穿いている方!)は、ぜひ裏返して縫い目をチェックしてみてください。「あっ、ここはチェーンになってる!」「ここはシングルだ」と、作った職人の意図が見えてきて、今まで気づかなかった新しい発見があるはずですよ。
アタリを極める「じゃじゃ馬ミシン」の魔法

引用:NAHKISM★Blog / UNION SPECIAL 43200G
さて、ここからがデニム好きにとっての一番のロマンです。
先ほど「チェーンステッチは糸が縮んで波打つシワ(アタリ)ができる」と説明しました。これだけでも十分にカッコいいのですが、ヴィンテージファンはさらにもう一段階上の、「斜めにねじれたような、強烈なボコボコ」を求めます。
その正体はミシン。
ユニオンスペシャルで縫うと「さらに特別」
あの最高の色落ちを生み出している本当の正体。それが、1950年代などに活躍していた「Union Special(ユニオンスペシャル)43200G」という、アメリカ製の古い裾上げ専用ミシンです。 日本ではその丸みを帯びたフォルムから「ダルマ」の愛称で親しまれ、現在では状態が良いと100万円近い価格で取引されることもある幻のヴィンテージミシンです。
しかしこの年代のミシン、現代の最新機と比べると、ハッキリ言って手のかかる“じゃじゃ馬”なんです。

画像:ユニオンスペシャルで仕上げられた裾
現代のミシンが生地をまっすぐ綺麗に送って縫ってくれるのに対し、当時のユニオンスペシャルは構造上の強いクセがあり、生地を斜めにズラしながら縫い進めてしまうという特徴がありました。
ズレたまま無理やり縫い付けられたデニムの裾。 それが洗濯されて水を通ることで、「斜めにズレた生地が元の位置に戻ろうとする強烈な力」と「綿糸がギュッと縮む力」がぶつかり合い、あの立体的で荒々しい「斜めのうねり」が爆誕するというわけです。
最新技術の「優等生なミシン」では、平坦でつまらない色落ちになってしまう。 昔の「斜めにズレちゃうじゃじゃ馬なミシン」だからこそ、世界一ロマンのある色落ちが生まれる。
ジーンズの裾には、そんな嘘のようなロマンが詰まっているのです。
裾上げの正解:シングルか、チェーンか

「じゃあ、これからジーンズを裾上げする時は、絶対にチェーンステッチにしなきゃダメなの?」
そう思った方、安心してください。決してそんなことはありません。 「どんな風にジーンズを穿きたいか」によって、正解は明確に分かれます。
① 経年変化(色落ち)を愛するなら「チェーン」
アメカジが好き。ヴィンテージのように、裾に荒々しいアタリ(パッカリング)を出して「自分だけの一本」に育て上げたい。そんな方は、迷わずチェーンステッチを選んでください。少し解けやすい弱点すらも、愛おしく感じるはずです。
② 綺麗めなシルエットを保つなら「シングル」
例えば、真っ黒なスキニーパンツや、上品に穿きたいテーパードデニムの場合。裾がボコボコとうねってしまうと、せっかくの綺麗なシルエットや清潔感が損なわれてしまいます。そんな時は、丈夫でうねりが出ない「シングルステッチ」が圧倒的に大正解です。
どちらが偉い、というわけではありません。 「無骨に育てるか」「綺麗に保つか」。目的に合わせてステッチを使い分けるのが、大人のジーンズの楽しみ方です。
おわりに:自分だけの「裾」を育てよう
いかがでしたでしょうか。
「解けやすいから不便」「昔のミシンだからじゃじゃ馬」。 そんな一見ネガティブな要素が、すべて「最高の色落ち」という結果に繋がっていくのが、チェーンステッチ最大の魅力です。
ジーンズは、穿き手の生活がそのまま刻まれるキャンバスのような服です。 次にジーンズの裾上げをする時は、ぜひ足元の小さなステッチにまで思いを馳せて、あなただけの相棒を穿き込んでみてくださいね。
「こんな風に裾にアタリが出たよ!」という熱いご報告はこちらから。
次回も、デニムの奥深すぎる世界をマニアックにお届けしたいと思います。お楽しみに!
コロモビト.ではあなたを魅力的にする情報をお届けしていきますので、またお越しいただけましたら幸いです。 よろしければブックマークよろしくお願いいたします。最後までお読みいただき、ありがとうございました!








