あなたの靴のタグ、見てみて!なぜ有名スニーカーは「ベトナム・インドネシア製」がこんなに多い?
こんにちは。
コロモビト.ライターのコガタです。
突然ですが、今履いているスニーカー、もしくは玄関にあるお気に入りの一足を手に取ってみてください。
そして、ベロ(シュータン)の裏にあるタグをチェック。
そこには、なんて書かれていますか?
「MADE IN VIETNAM」あるいは「MADE IN INDONESIA」
……見つかりませんでしたか?

「え、スニーカーって“中国製”が多いんじゃないの?」そう思った方も多いはず。
もちろん、中国はいまでも世界最大の靴生産国です。
ところが、NIKEやadidasなどのスポーツブランドのスニーカーに絞って見ると、ちょっと事情が違います。
例えばNIKE。2025年6月〜2026年5月の1年間に生産されたNIKEブランドのシューズは、
・ベトナム:約52%
・インドネシア:約27%
この2か国だけで、なんと約8割を占めています。
adidasも2025年のフットウェア生産では、ベトナム:41%、インドネシア:31%で、合わせて72%。
さらに、今人気のスイス発ブランドOnにいたっては、2025年に生産されたシューズの約90%がベトナム、約10%がインドネシア。
ほぼ全部じゃないですか!?
ではなぜ、世界的なスニーカーブランドは、これほどベトナムとインドネシアに集まっているのでしょうか。
「人件費が安いからでしょ?」もちろん、それも理由のひとつ。
でも調べてみると、それだけではありませんでした。
今回は、いつも何気なく見ている「MADE IN ○○」の裏側を、できるだけ分かりやすく紐解いてみます。
まず、中国製の靴が減ったわけではない

最初にひとつだけ整理しておきましょう。
「じゃあ今、世界で一番靴を作っているのはベトナムなの?」というと、そうではありません。
2025年に世界で生産された靴は、約246億足。
そのうち中国製は約137億足で、世界全体の55.6%を占めています。
つまり、世界全体で見れば今でも2足に1足以上が中国で作られている計算です。
やっぱり中国、強い。
では何が変わったのか。
ポイントは、「靴全体」ではなく「スポーツスニーカー」を見ること。
革靴やサンダルなども含めれば、中国はいまも圧倒的な生産国。
その一方で、NIKEやadidasなどのスポーツシューズでは、ベトナムとインドネシアの存在感がものすごく大きくなっています。ここから、その理由を見ていきましょう。
理由1:中国だけで作る時代ではなくなった

まずは、やっぱりお金の話。
かつて「世界の工場」と呼ばれた中国は、経済の成長とともに人件費や生産コストも上がっていきました。大量のスニーカーを作るブランドからすると、「中国だけに頼るのは、ちょっとリスクが大きいな……」となるわけです。
そこで注目されたのが、ベトナムやインドネシアをはじめとする東南アジア。
実際、米国国際貿易委員会も、中国の賃金上昇などを背景に、フットウェア企業がベトナムやインドネシアといった他のアジア諸国へ生産・調達先を分散させてきたと報告しています。
ただし、「中国が高くなったから、急にベトナムへ引っ越した」というほど単純な話ではありません。
実はNIKEでは、10年以上前からすでにベトナムが中国を上回る主要なシューズ生産国になっています。2016年度の時点でも、NIKEブランドのシューズはベトナム44%、中国29%、インドネシア21%でした。
そこへ米中の貿易摩擦や、ひとつの国だけに生産を集中させるリスクなども重なり、東南アジアへの分散がさらに進んでいった。
というのが実際の流れです。
理由2:NIKEの靴=NIKEの工場で作っている、ではない

画像引用:Shoez / Pou Chen Vietnam Enterpriseの工場
ここから、ちょっと面白い話です。
NIKEのスニーカーって、NIKEが持っている巨大工場で、NIKEの社員さんが全部作っている。
なんとなく、そんなイメージありませんか?
実はそうとは限りません。
NIKEやadidasなど多くのブランドは、靴作りを専門とする外部メーカーに生産をお願いしています。いわゆる「OEMメーカー」です。
……と聞くと急に難しく感じますが、「スニーカー作りのプロ集団」くらいに考えてください。
NIKEの場合、2026年5月末時点で、契約メーカーが運営する完成品シューズ工場は11か国・95工場。
これだけ大きなネットワークを使って、世界中のNIKEシューズが生産されています。
その裏側を支える代表的な企業のひとつが、台湾で誕生した「Pou Chen(宝成工業)」。
NIKE、adidas、ASICS、New Balance、Salomonなど、誰もが知るブランドのシューズを手掛ける世界最大級のシューズメーカーです。
Pou Chenは1988年に中国、1992年にインドネシア、1994年にはベトナムへと生産拠点を広げていきました。
つまり、「ベトナムで突然スニーカー作りが始まった」わけではないんです。
長年スニーカーを作ってきたメーカーが、技術や設備、人材育成のノウハウごとベトナムやインドネシアへ進出していった。
ここがかなり重要なポイントです。
理由3:工場が集まると、さらに工場が集まる

そしてもうひとつ。
スニーカーって、実は「部品のお化け」なんです。
アッパーのメッシュ。靴紐。ソール。クッション材。人工皮革。接着剤。ロゴパーツ。モデルによっては、カーボンプレートや特殊なフォームまで使われています。
NIKE自身も、シューズの主要素材として天然・合成ゴム、フォーム、天然・合成皮革、ナイロン、ポリエステルなど、さまざまな素材を挙げています。
当然、ひとつの工場ですべてをゼロから作っているわけではありません。
「ソールを作る会社」「生地を作る会社」「パーツを加工する会社」など、たくさんの企業が関わって一足が完成します。
大手のシューズ工場がベトナムへ進出すると、今度はその周りに部品メーカーや素材メーカーも集まり始める。さらに中国や台湾、韓国など周辺国の素材メーカーともつながっていく。
気付けば、「スニーカーを作るなら、この辺に来れば大体なんとかなる」という巨大な生産ネットワークが出来上がっていったわけです。
例えるなら、スニーカー関連の専門店が全部集まった「巨大ショッピングモール」。
一度これだけ環境が整うと、新しいブランドが靴を作るときにも「じゃあベトナム周辺で作ろう」となりやすい。そしてまた工場や取引先が増えていく。強いところに、さらに仕事が集まる。そんな好循環ができています。
理由4:インドネシアは「最近出てきた国」じゃない

画像引用:COSMO sourcing / インドネシア工場での製造風景
では、もうひとつの巨大拠点「インドネシア」はどうでしょう。
こちらも、「人件費が安いから最近選ばれ始めた」というイメージを持たれがち。
でも実際には、世界的なシューズメーカーがインドネシアへ本格的に進出し始めたのは1980年代後半〜90年代。先ほど紹介したPou Chenも、1992年にインドネシアへシューズ工場を設立しています。
つまり、すでに30年以上もスポーツシューズを作り続けているんです。
30年以上。ひとことで言うと簡単ですが、これだけ長く作り続ければ、「この素材なら、こう扱う」「この工程では、ここに注意する」「大量生産すると、ここで品質がブレやすい」といった経験がどんどん積み上がっていきます。
NIKEの長年の製造パートナーである台湾の「Feng Tay」も、中国だけでなくインドネシア、ベトナム、インドへ工場を展開。1992年にはNIKEと共同で、NIKE初となるアジアのシューズ製造研究開発センターを設立しています。
だから今でもインドネシアは、世界的ブランドにとって重要な生産拠点。先ほど紹介したNIKEでも、2025年6月〜2026年5月のシューズ生産の約27%をインドネシアが担っています。
単に「安く作れる国」ではなく、スニーカー作りの経験値がものすごく高い国でもあるわけです。
理由5:「安い」だけでは世界中のブランドは集まらない

画像引用:アジア経済ニュース / ベトナム工場での製造風景
ここまで読んでも、「とはいえ結局、人件費が安いのが一番大きいんでしょ?」と思いますよね。
もちろん、コストはとても重要です。でも、安いだけなら世界中に候補はあります。
では、なぜベトナムとインドネシアなのか。
ポイントは、「同じ品質の靴を、大量に作り続けられること」です。
スニーカーは、パーツを縫ったり、貼ったり、成型したり、組み立てたりと、かなり工程の多い製品。しかも、一足だけキレイに作ればいいわけではありません。
1万足作っても、10万足作っても、できるだけ同じ形、同じ履き心地、同じ仕上がりにしないといけない。考えてみると、これってかなり大変。
世界的ブランドが求めているのは、「一人のすごい職人さん」というより、高い品質を何万足でも再現できる工場そのもの。
ベトナムやインドネシアには、長年の生産によって人材、設備、品質管理、取引先との連携などが積み重なっています。だから多少ほかの国の人件費が安くても、「はい、来月から全部そっちでお願いします」とはならないわけです。
実際、adidasでは2025年時点で、独立した製造パートナーの65%が10年以上、37%は20年以上adidasと取引を続けています。ブランドと工場が長い時間をかけて、一緒に技術や品質を積み上げていることが分かります。
さらに現在のスニーカー工場では、自動化も進んでいます。Feng Tayも、従来人の手に頼ってきた靴製造を効率化するため、自動機械や製造システムの研究開発を進めています。
人の技術。機械。積み重ねてきたノウハウ。
この3つが組み合わさって、僕たちが履いている一足が作られているんです。
おわりに:シュータンの小さなタグが、ちょっと面白く見えてくる
普段、何気なく履いているスニーカー。
デザインしたブランドはアメリカかもしれない。日本かもしれない。ドイツやスイスかもしれない。
でも実際に靴を作っている場所まで辿っていくと、ベトナムやインドネシアの工場があり、その裏には台湾発祥のシューズメーカーがいて、さらに中国や韓国などの素材メーカーが関わっている。
一足のスニーカーって、実はものすごくグローバルな製品なんです。
そして、ベトナムやインドネシア製が多い理由も、「人件費が安いから」だけではありません。
・何十年も積み重ねてきた製造技術。
・周辺に集まった部品メーカー。
・大量生産でも品質を揃えられるノウハウ。
次に新しいスニーカーを買ったら、ぜひシュータンの裏をめくってみてください。
「MADE IN VIETNAM」
「MADE IN INDONESIA」
いつもなら読み飛ばしていた小さな文字も、少しだけ違って見えるかもしれません。
さて。
あなたが今履いている、その一足。
どこで作られていましたか?
参考資料
※記事内の生産比率・製造拠点・業界動向などは、以下の企業公式資料・公的機関・業界資料を参考にしています。
NIKE, Inc.「2026 FORM 10-K」
NIKEブランドのシューズ生産国比率、製造工場数、契約メーカー、使用素材など。
adidas「Annual Report 2025」
フットウェアの生産国比率、製造パートナーとの取引期間など。
adidas「Sourcing and Supply Chain」
独立した製造パートナーとの関係、製造体制について。
On Holding「Annual Report 2025」
ベトナム・インドネシアにおけるシューズ生産比率など。
World Footwear「Global footwear production holds steady in 2025」
2025年の世界の履物生産量、中国・ベトナムなどの世界シェア。
U.S. International Trade Commission「Footwear」
中国の生産コスト上昇と、ベトナム・インドネシアなどへの調達先分散について。
Pou Chen Group「Footwear Business」
NIKE、adidas、ASICS、New BalanceなどのOEM/ODM生産について。
Pou Chen Group「Overseas Locations」
中国・インドネシア・ベトナムへの生産拠点展開について。


